大塚オーミ陶業は、絵画や文化財などの貴重な文化資産を、「やきもの」に置き換えた複製作品を「セラミックアーカイブ」と称しています。やきものの特性により展示環境に左右されにくく、絵画や文化財をより身近に感じることを可能にします。
この「文化財関連複製製作レポート」では、そのような「セラミックアーカイブ」にまつわる文化財の複製技術やその活用についてご紹介します。
■高松塚古墳壁画× 最新の3D 技術
これまで私たちは、「セラミックアーカイブ」として、やきものの特性である耐候性、耐久性と、大塚オーミ陶業の独自技術により表現された色彩や質感を併せ持つ、さまざまな複製作品を製作してきました。
2014 年頃からは、その大塚オーミ陶業の独自技術に、「最新の3D 技術」を融合した複製の製作を開始。よりリアルな表現を目指し、試行錯誤を重ねてきました。
そして昨年、「高松塚古墳壁画」の中でも特に有名な女子群像「飛鳥美人」が描かれた西壁壁画を、3D技術を利用し、陶板で複製するプロジェクトに挑みました。
< 国宝「高松塚古墳壁画」について>
1972 年3 月21 日、我が国で初めて発見された極彩色の古墳壁画。7 世紀末から8 世紀初めに築造され、石室内部に星辰(星宿)図、日月像及び四神図、人物群像(女子群像、男子群像)が描かれている。
キトラ古墳壁画と合わせて日本で2 つしか発見されていない貴重な極彩色の「古墳壁画」だが、カビなどによる汚染のため、2007 年に石室を掘り出し、内部の壁画を取り出して保存・修復。2020 年3 月、約12 年の歳月を経て修復作業が完了。
(参照▶文化庁 高松塚古墳概要ページ:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/takamatsu_kitora/takamatsu_gaiyo/
▶国営飛鳥歴史公園 高松塚古墳ページ:https://www.asuka-park.go.jp/area/takamatsuzuka/tumulus/ )
■これまでとは違う、新たな陶による再現への挑戦
今回の製作での大きなポイントは、「過去(壁画発見当時)の色彩再現」と「過去の凹凸を再現」することです。現在の凹凸データと過去の画像データに基づき、それらを比較検証した上で作業を進めました。
今まで私たちが手掛けてきた複製は、文化財の「今」の状態を陶に「置き換える」複製でした。しかし今回は、「オリジナルが(カビによる汚染などで)劣化した今、発見当時の状態を、現在の状態も加味して立体的にも再現する」(橿原考古学研究所 青柳正規所長談)という、新たな複製を製作することが求められました。
そんな未だかつてない、新たな複製への取り組み。しかし、誰も見たことがなく、出来上がりが想像できません。
だからこそ、壁画をどのように陶で複製するのか、要素の整理や理解を深めるため、実際に壁画発見当初の古墳石室で調査を行い、直接壁画をご覧になった専門家や、壁画の修復作業に当たられた技術者の方々、文化庁や各専門分野の皆様に助言を頂きながら、何度も試作を繰り返し、本製作へ反映していきました。
■よりリアルな凹凸表現を目指して 自社での3D データ編集に挑む
今回の高松塚古墳壁画複製陶板の製作では、陶板の元となる素地の上に、3D 加工用の盛り土を成形し、直接陶板を切削加工する方法を採用。その切削加工に使用する3D データの編集も、自社で行いました。
製作のために提供された3D データは、橿原考古学研究所と奈良文化財研究所がそれぞれ計測した、最新のものと過去のものの2 種類。専門家との打ち合わせで最新の3D データを基に製作することとなりましたが、その3D データに不足部(計測し切れていない部分)があることが判明しました。
そこで私たちは、過去に計測された3D データから不足部を補う方法を社内検討し、専門家の方々と協議し、不足部の埋め方やデータの編集方法まで、一つ一つ丁寧に根拠を確認しながら3D 編集作業を進めました。【写真1】
また、1972年発見当初の高松塚古墳壁画の写真と3Dデータを丹念に比較し、合致しない部分についても専門家と協議。3Dデータを1972年の写真を元に補正し、発見当時の壁画の再現をできる限り追求しました。
「3D データが新しいものと過去のものの2種類あり、それらは計測方法が異なるため、慎重にデータの調整をして合成しました。3Dデータ編集の進め方については、先生方に編集方法が適切であるか、プロセスごとに細かく画像で説明して、課題を頂戴し、それを解決しながら進めました。」(3D編集を担当した社員)
■培ってきた製陶技術と3D 技術の融合 多様な要望に向き合い真摯に応える
そうしてできた3D データを元に、陶板に直接切削加工を施します。【写真2】 測定データとの誤差は1㎜以内を目指しました。しかし、切削加工機の刃物が入らない、斜めから土を削り取る必要がある箇所などは、熟練の技術者が手作業で凹凸の最終仕上げを行います。【写真3】
「修復中の壁画の実物も見せていただき、より『リアル』な凹凸の再現を目指しました。それでも漆喰の柔らかな表情を陶板で表現するのは難しい。」(同社員)
このように加工を経た陶板は無事、当初目指した誤差1 ㎜以内の数値で焼き上がりました。