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「やきもの」のある空間

陶板を活かしたキャンパスづくり 学校法人玉川学園<第2部>

2022/02/04

▶︎<第1部>はこちら

 


 

「やきもの」のある空間 - 第3回 -

陶板(toban) × 学校《特別編》

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 玉川学園は創設者・小原國芳氏が「ゆめの学校」を実現する為に1929 年に創設した学校で、調和のとれた人間形成を目指し独自の教育活動やキャンパス整備を展開されています。

 

 本レポートでは、約20 年に亘り陶板をキャンパス整備に活用いただいている玉川学園の教育理念実践に向けた取り組みを紹介します。

 

 第2部では、キャンパス整備を担当されている、総務部管財課の北川昭一様にお話を伺いました。





 

■「ゆめの学校」構想は継承しつつもエリアを整備  「日常」と「非日常」が共存するキャンパスへ


 

-キャンパスの敷地面積は約61 万㎡、東京ドーム13 個分。東京都町田市、神奈川県横浜市、川崎市に跨がる広大なキャンパスを誇る玉川学園ですが、この広大な敷地に対し、どのように整備を進めておられるのでしょうか。


玉川学園総務部管財課 北川昭一さん(以下、北川):

創設者の小原國芳が色紙に描いた「ゆめの学校」の絵のように、山を残しながら起伏のあるキャンパス整備をするという方針を代々引き継いでいます。【写真1】


 

  • 【写真1】玉川学園創設者・小原國芳氏が描いた「ゆめの学校」の絵。緑豊かな丘陵地に、自然に溶け込むように点在した校舎が描かれており、キャンパス整備の礎となっている。 

 

北川:

キャンパス整備が急激に始まったのは2011 年から、「玉川大学マスタープラン」というものを策定して整備を進めています。


2009 年度にキャンパスマスタープランの見直しを行い、校舎を新しく建て替えるのか、もしくは耐震補強をして使い続けるのかを議論しました。


結果としては順次新しく建て替えをし、時代の流れに対応した本学の特色ある教育、例えばアクティブ・ラーニングや講義室以外の様々な場所での授業スタイルなどにも対応出来るよう整備することに決まりました。



61 万㎡の敷地の中に幼稚園から大学・大学院まであり、従来の整備計画では様々な交流が出来るように、小学校の施設の横に大学の施設を作るなど施設が点在していました。

しかし、教育システムの変革への対応や学生の学びの質をより高めるため、大学施設を集約しようというのが2011 年から進めている計画です。


本学敷地内の中央に小田急線が走っていますが、その線路の北側を大学エリアとし、ほかK-12 エリア、大学の体育施設・学術研究施設が集まるエリアというようにゾーニング整備しています。【写真2】



 

  • 【写真2】キャンパスMAP。中央に走る小田急線の線路を挟んで左が北側、右が南側。北側には大学施設が並び、南側には幼稚部園舎やK-12(いわゆる小学校から高等学校までの1~12 年生)の施設などが並ぶ。 



 

-ではそのキャンパス整備の中で陶板はどのような役割を果たしているのでしょうか?
 

北川:

本学では、人間の価値形成には優れた芸術作品が重要な役割を果たすという考えのもと、様々な芸術作品を設置しており、陶板は学生たちへ向けたメッセージとしてかなり重要な役割を果たしています。

本学にとって「やきもの」は身近な存在です。「教育博物館」という施設があり、教育関連資料のほか、キャンパス内の出土品を展示しています。

先日も発掘エリアから土器が出土しましたし、大学施設としては陶芸教室や陶芸の工房もあります。

 

ただ、何故陶板作品を採用しているのかと言いますと、「日常」と「非日常」の空間が共存できるということでしょうか。


通常だと外国に行かないと見られないような作品も身近に感じることができる。それは本来「非日常空間」ですよね。

その作品を陶板として校舎など公共の場に設置することで、学生たちは常に身近に感じることができ、「非日常」が「日常」のものとなっています。



紙などではなく、2000 年持つと言われている耐久性のある陶板で、「モノ」として残すことは必要な事だと感じています。


耐用年数の観点から、校舎は建て替えられる可能性があります。また、時代とともに教育内容もどんどん変わっていきますが、変わらない教育理念やキャンパス整備時の想いは、陶板とともにカタチを変えずに伝え続けていきたいと思っています。


在学中には気付かないかもしれないメッセージ。でも社会に出て振り返った時にきっとその大切さを実感することがあります。


いつか学生たちが玉川に帰ってきた時に変わらぬ姿でメッセージを伝え続けるためにも、リアルな「モノ」として陶板を使う意味があると思っています。




 

■学校の大切にしているものを大切に ものづくりに対する真摯な姿勢

 

 

-その中で北川さん個人が印象に残っている作品はありますか?

 

北川:

私はやはり担当として全部思い出があるのですが…版権使用の交渉や著作権の承諾を得る作業というのはこんなに大変なのかというのも一緒に仕事をして実感しましたし、実際に海外にまで原画を見に行って色合わせをして下さったり、その苦労があって出来ているということを思うと「アテネの学堂」も「聖体の論議」や「コンポジションⅧ」も思い出深いですね。

そんな中でも特に嬉しかったのは、最近設置した本学の「校歌」を陶板にして下さった作品ですね。【写真3】

書体の再現だけではなく、色紙に書かれているということで手触り感までかなりこだわって作って頂き、学校の大切にしているものを同じ気持ちで大切にしてくれている会社だなと嬉しく思いました。私としては校歌が陶板製作の段階からすごく印象に残っていますね。

  • 【写真3】校歌の陶板。聖山と呼ばれる丘の上に設置されている。この聖山一帯は、玉川学園の建学の精神を象徴する場所でもある。校歌が書かれていた色紙の質感も再現している。 
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-2019 年に聖山に設置したものですよね。てっきり陶板名画かと思いました。

北川:

本当にどの陶板も思い出深いのですが、玉川の校歌の陶板は、技術へのこだわりやものづくりへの執念を一番感じて嬉しかったです。それが、学内の多くの陶板名画にも反映されているのでしょうね。



 

■意識して「みる」ことは「よく考える」こと

 

 

 今回、インタビューに先がけ、実際に普段学内で陶板を目にしている学生たちの意見も集めていただきました。


 弊社の名前や、陶板についてもあまり知らない学生も多く、休日に改めて学園内の作品を見て回りレポートを書いた学生もいたそうです。学生たちの意見の一部を紹介します。

 

 

・陶板がそれぞれの場所の意味に沿って陶板の絵が選ばれていることに面白さを感じた。その場所にあった意味を持つ作品が置かれていることで、その陶板を見て、自分たちの学びを再認識することができる。

 

・その絵をしっかりと見て理解しようとしないと意味を理解したことにならず、もったいないと思う。その陶板の絵の意味を知る機会があればもっと自分たちのプラスになると思った。

 

・陶板だからこそ実際に触れる作品もあり、学校という身近な場所で芸術に触れることができるのは恵まれている環境だと感じた。身近にこのような美術作品があることで少しでもアートに関わりを持つことができ、作品を見る目も育まれると思った。

 

・「アテネの学校」の陶板は毎日通学時に見ていたので、特に強い思い入れがある。建築と陶板が響き合い、開放感のある気持ちになれる。あれだけ大きな作品があるとインパクトがあり、校舎のシンボルにもなっている。【写真4】

 

・中学部にある逆さまの世界地図は、視点が変わると世界の見え方が変わるというメッセージを聞いて感動したのを今でも覚えている。校舎ごとのイメージが陶板で印象づけられて記憶に残っている。それが陶板の素晴らしさだと思う。【写真5】


 

  • 【写真4】「アテネの学校(学堂)」(K-12 中央校舎アトリウム) 
  • 【写真5】逆さまの「世界地図」(K-12 東山校舎) 

 

-学生たちの意見を取りまとめていただきありがとうございました。

 

北川:

今までのキャンパス整備を振り返る良い機会になりました。陶板の説明板には設置している理由などは敢えて入れていません。

メッセージは一つではないので、建物が完成した時にも陶板に込めた意味は最低限の説明しかしません。

 

学生、生徒たちが自分たちそれぞれの感性で考えるために作品解説も入れていないのですが、何のために陶板を設置しているのか、こうしたきっかけがないとなかなか感じることができないのはもったいないなと思いました。

 

 

-陶板名画も日常の風景になると、意識して見ることは少ないのかもしれませんね。しかし、今回意識して見た学生たちは、少なからず何らかの気付きを得られたように思いました。

 

北川:

陶板を設置した後にどのようにメッセージを伝えていくかということは、課題として良い気付きになりました。

成果物を見せるだけではなく、作っている過程や苦労している過程も、記録に残して伝えていった方が学生たちの学びになるのかなと今回感じました。

 

少なくとも今回調べた学生たちは大塚オーミさんの事や陶板についても知ったでしょうし、何故ここに絵があるのかを考えたと思います。

 

学生の数だけ答えがあって、今は意味が分からない子も社会に出た時などにきっと役立つのではないかと思っています。

 

 

-ふとしたきっかけで陶板の事を少しでも思い出してくれると嬉しいですね。
 

北川:

そうですね。日常の中から様々な気付きを得られるようなゆめの学校を作るために、これからも整備を進めていきたいと思います。

  • 休日に改めて学園内の作品を見て回った学生たち。「大学生活に慣れ、大学構内の様々な所が日常に溶け込むようになりましたが、あの陶板作品たちだけは非日常感や、玉川に初めて来た時の感覚を思い出させてくれます。」とのこと。 



 

 玉川学園創立者・小原國芳氏の言葉に「教えられるより自ら学びとること。教育は単なる学問知識の伝授ではなく、自ら真理を求めようとする意欲を燃やし、探求する方法を培い、掴み取る手法を身に付けるものである。」という言葉があります。

 

 

 そのための一歩となるのが、意識してみる(見る・観る・視る)ことではないでしょうか。

 意識して「みる」ことは、「よく考える」ことでもあります。陶板は言葉を発することはありません。作品から受け取るメッセージは人それぞれ。人の数だけ答えがあり、どれも間違いではありません。

 

 

 多様な人、多彩な授業、レンガの校舎、緑の大きなグラウンド、そして陶板をはじめとした数々の芸術作品。

 広大なキャンパス内には、様々な学びの要素が準備されています。学校生活のあらゆることから学び、考え、自分自身を育むために

 

 陶板からのメッセージを受け取って「みて」いただければと思います。

 

 

 次回、第3部では玉川学園理事長・小原芳明氏と弊社代表取締役社長・大杉栄嗣が「これからの教育のあり方」をテーマに、玉川学園が目指す教育や、これからの時代に企業は教育に対しどう考えるべきか等について対談した内容をご紹介します。



第3部 前編はこちら

▶︎陶板を活かしたキャンパスづくり 学校法人玉川学園第2部PDF(1MB)

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