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陶板によるキトラ古墳壁画の複製

陶板によるキトラ古墳壁画の複製

2014/04/04

■文化庁からのプロジェクト

 

私たちは、1973年会社創立以来、「やきもの」により、数々の古画・作家作品・オリジナル作品等を創造・再現してきました。なかでも、大塚国際美術館は、建築・絵画・壁画等を陶板で再創した美術館として広く知られています。

また、「敦煌莫高窟323窟」「ベゼクリク誓願図」「高松塚古墳壁画」等々、陶による文化遺産の複製も手がけてきました。

これらの実績と技術力が評価され、2009年文化庁より「陶板によるキトラ古墳壁画等の複製等業務」の依頼を受けるに至りました。石室内部の、天井、東壁、西壁、南壁、北壁、及び床面の、6面全ての複製を製作しました。

しかし、今までとは求められた完成度が違う。それが、このキトラ古墳壁画の複製陶板なのです。

  • 古画「洛中洛外図」(大塚比叡山荘) 
  • 大塚国際美術館 システィーナ・ホール 
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■キトラ古墳壁画とは?

 

キトラ古墳

特別史跡キトラ古墳は、石室の天井に天文図、側壁に四神や十二支の獣頭人身像が描かれた古墳であり、7世紀終わりから8世紀初め頃に造られたと考えられています。奈良県の明日香村の、高松塚古墳の南に位置する阿部山と呼ばれる小高い山の南側斜面で発掘されました。

キトラ古墳石室内には、1300年ほど前に描かれた、極彩色の壁画が描かれています。高松塚古墳に次いで国内では2例目のものであり、2000年(平成12年)に、国の特別史跡に指定されました。

 

壁画の現状

しかし、発見された壁画の劣化は激しく、保存が最優先であったため、緊急的に取り外された経緯があります。

現在は、全ての壁画が取り外され、壁画部分は保存、修理が進められ、石室周辺は埋め戻されています。

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  • 東壁 陶板か、現物か、わかりますか? 

■専門家との対話から

 

複製陶板は、文化庁より提供された高精細デジタル画像によるフォトマップ資料や、斜光撮影の写真など、3万枚もの画像データをもとに作られています。
その製作は、文化庁より任命された複製品製作委員の専門家や、実際に第一線で壁画の取り外し業務に携わった人たちと幾度も対話を重ねることで進められました。

たとえば石室内に侵入した植物の根の様子、卵のカラにヒビが入った様なしっくいの表面、他面と比べ水分の多い天井の色合いなど、写真からだけでは伝わらない、より生々しい調査当時の状況を知ることが出来ました。その対話の内容を記すのが、「書き込みパネル」です。

  • 複製陶板と実物の壁画の比較検証 
  • 複製品製作委員会との打合せの様子 
  • 書込みパネル:東壁  実寸大のフォトマップに、直接コメントを記していった。 

■複製品の製作

 

やきものは、焼成時におよそ10%の縮みが発生します。その際、焼く前にはなかったヒビや、形のゆがみが表れる可能性のある素材です。
そのリスクや難易度は、その大きさが大きくなるほど、薄く、平たくなるほど高まります。

  • 製作の大きな流れ 

素地づくり

当社では、製品の目的や用途に合わせ、粘土の配合を変えています。今回は忠実な細部の表現が求められたため、粘土に加工のし易い細かな土を特別に配合し、土台としました。
そこへ化粧土を盛り、陶板の表面を滑らかに整えます。変化に富んだ壁面の状態を表現する為に、部分によっては化粧土の粒子の荒さを変えています。
表面の凹凸は、常に斜光ライトによって確認しながらの作業でした。斜光による影を写真に写された影と一致させることで、より忠実な、しっくいの立体的な表現を目指しました。
ナイフやへらなどを使い、精緻に壁面の凹凸や、四神や十二支の下絵である刻線などを刻んで行きます。

  • 素地づくりの様子 
  • 様々なテクスチャーの素地 
  • 斜光ライトによる検品 
  • 検品に立ち会う専門家 

  • 浮き上がった漆喰のエッジの加工 

転写紙の作成

このようにして出来た土台を一旦焼成し、今度はその上に転写紙を貼り付けて行きます。
転写紙は、発掘調査の際に石室内を撮影された高精細のデジタルカメラによる写真を合成した「フォトマップ」をもとに作られています。このフォトマップは、実物の修理作業等の基本資料として使用されている重要な資料です。
そのフォトマップ画像データをCMYKの4色へ色分解し、それぞれに版を作成します。それらをやきもの用の特別な顔料を使って、シルクスクリーンで刷り上げ、転写紙を仕上げます。
最終の仕上がりに近づける為、版の色調整を何度も行い、色再現のための試作を繰り返しました。

  • 色分解の様子 
  • シルクスクリーンプリントの様子 
  • 色調の調整 
  • 転写紙は水に浸してから素地の表面に貼付ける 

  • ローラーハースキルンによる焼成 
  • ローラーハースキルンによる焼成 

職人による仕上げ

出来上がった転写紙を素地表面の隆起にあわせ、注意深く貼付けて行きます。そして、転写紙を載せた土台を焼成し、そこへ絵筆によって更に色を補色していきます。
絵の具の発色は、その厚みなどにもよりますが、最終的には焼き上げてみないとわかりません。技術者の長年の経験と感覚を頼りに、色を重ねて行きます。
この作業を何度も繰り返すことで、よりフォトマップに忠実な色調の再現を目指します。色調再現のための、幾度もの焼成を可能にする私たちの陶板は、熱に非常に強いのが特徴です。
壁を這う根の盛り上がりも再現し、天井画の宿星図にも、星を表す金箔をひとつひとつ貼付けて行きます。

  • 転写紙の貼付け 
  • 金箔を表面に貼付ける(宿星図) 
  • 細部補色の様子 
  • 根の立体的な表現 

完成

この様な多岐にわたる工程を経て出来上がった陶板は、天井部のカーブや壁画の下絵である刻線、しっくいが壁から浮き上がって剥がれ落ちそうな部分まで、全てが忠実に再現されています。
泥を被った部分や雨水が通った跡などの、壁面の質感の違いの複製化にも成功しています。

  • 完成した陶板 
  • 浮き上がった漆喰の様子 
  • 下絵の刻線 詳細(寅部) 
  • 宿星図(天井部) 

■記録保存として有効な陶板

 

やきものによる複製が優れているのは、細部にわたる質感表現を可能としているだけ、ではありません。

複製されたものは堅牢で、耐久性に富み、経年による退色が少ないといった特徴のほか、メンテナンスも比較的容易であるため、長期の保存・鑑賞にも適しているのです。これは、ある時点での情報が保存でき、同じ情報をかたちにして未来へ伝え続けることにもつながります。
また、私たちの陶板は世界最大級の大きさを誇るため、そのつなぎ目である目地を限りなく減らすことができます。これは境界の分断が少なく鑑賞の邪魔をしないため、今回のような原寸大での再現にも適しています。
加えて、壁面を組立て式(可変式)にすることで、当時の石室内を体感することもできます。これは、寸法精度の良い陶板と、独自の施工法の研究・開発により実現しています。
 

陶板によるキトラ古墳石室内壁画の複製品は、当時の石室内部の湿度100%の濡れ色で忠実に再現されています。

そして、壁画剥ぎ取り前の石室内の立体の姿は、現在ではこの複製陶板でしか知り得る事はできません。
専門家からは、

「当時の石室内の状況が思い浮かぶようだ」

「このしっくいを剥がしたくなる」(壁画が石室内よりはぎ取られた経緯から)

「大塚オーミ陶業の複製陶板は、壁画という容易に移動できない文化財の記録保存として、大きな可能性を持っている。」

など、その再創性に高い評価を頂きました。


進行する劣化や、展示・公開されることで受けるダメージが考慮され、普段は目にすることの出来ない貴重な史跡や文化財が、日本を含め、世界各地に数多く存在します。
私たちは、複製陶板が文化財をより身近なものとして紹介できる手だてとなり、文化財の保存・活用の一助となることを目指しています。

  • 複製された南壁(朱雀) 
  • 内部全景 
  • 玄武(部分) 
  • 宿星図(部分) 

  • 複製された石室内の様子 

陶板によるキトラ古墳壁画の複製
copyright(c)2014 OTSUKA OHMI CERAMICS CO.,LTD.  All Rights Reserved.


※ 当レポート内の画像及びその他内容の無断転載・転用を禁じます。

PDF:陶板によるキトラ古墳壁画の複製(1.9MB)

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