ホーム > レポート > 陶板を活かしたキャンパスづくり 学校法人玉川学園<第3部>後編

REPORT

REPORT

「やきもの」のある空間

陶板を活かしたキャンパスづくり 学校法人玉川学園<第3部>後編

2022/05/09

 

「やきもの」のある空間 - 第3回 -

陶板(toban) × 学校《特別編》
 

  •  

▶︎前編はこちら




■これからの時代の学びと「全人教育」

  • 写真左から:弊社代表取締役社長 大杉栄嗣、玉川学園理事長・学園長 小原芳明氏 



大塚オーミ陶業株式会社代表取締役社長 大杉栄嗣(以下、大杉):
我々がよく馴染んでいる6・3・3制から、玉川学園は2000年ごろに今のK-12(幼稚園から高校までの一貫教育)にシステムを変え、連続性を持たせた教育をなさっていますが、その効果や成果は表れてきていますか。
 

玉川学園理事長 小原芳明氏(以下、小原氏):
いや、まだまだですね。
社会も保護者も、先生方も、6・3・3制で育ってきていますから、そこから抜け出すのは20年では足りない気がします。

日常の中でもつい6・3・3という考えが出てくるけれど、年齢で学年が決まるという時代ではなくなりつつあると感じます。
 

大杉:
それは個人が持っている可能性、個人個人の才能に合わせて自分のスピードで学んでいく時代になるということですか。



 

  •  



小原氏:
今は生まれた時点であなたは何年後の4月1日には小学校・中学校・高校へ行くということが決まっている。

学びたい欲求があるのにまだ年齢ではないからと言われてしまえば、そこで知的好奇心が止まってしまう。
一度冷めてしまったら、次に燃えるまで時間がかかる。

それは学習主体の 考え方かというと必ずしもそうではないのではないかと。
 
 
大杉:
世の中では多様性も言われていますけれども、その個人個人の才能の多様性も当然ありますよね。
 
 
小原氏:
今の日本の大学入試というものは共通テストに直接関わっていないものは勉強しなくても良いという風潮があります。
 
 
大杉:
それでも生活していく上で全く不自由でない。
日本人は海外へ行っても、日本の文化を語れない、あまり理解していないということもよく聞きます。
 
 
小原氏:
大学に入ってしまえば、あとは学歴、大学名で就職までできるから、ある意味広い分野の知識が無くても良いわけです。

トップにいる人間はそれでは駄目な時代が来ているのですけれども、逆に言えば何もそのような広い知識を持たなくても就職ができる社会になっている。
 
 
大杉:
しかし、これからは段々人口も減ってきて、労働力も不足してくるとなれば、そのような考え方だけでは成り立たないですよね。

基本的な知識・教養があって、会社が何かを意思決定する時に自分たちも意見を言えるようにならないといけません。

人がたくさんがいる時は意見を言える人も多くいますが、人口が少なくなってくると、皆がそこそこできないとやっていけなくなりますよね。
 
 
小原氏:
それは今後日本の社会が直面する課題になっていくと思います。

今後、労働力を外国人に頼らざるを得ないですよね。
そうするとその人たちがどういう教育を受けているかによっては、会社としてのガバナンス(統治、管理)がきかなくなってくる。

彼らが日本の管理職に対して「え、そんなことも知らないの」という印象を持ったならば、ガバナンスは成り立たなくなります。
 
これからは、自分の持ち場のことだけではなく広い知識も必要ですし、当然「人間とは何か」「社会とは何か」という、昔で言う「哲学」にも少し造詣がなければいけないのではいかなという気がします。
 
 
大杉:
冒頭にお話しされた、企業は儲けるためだけでなく、社会の問題をどう解決するかということを考えていくと、今言われているような「人間としてどういう風に生きていくか」「自分の存在とはいったい何なのか」ということを少しずつ考えていくこと ― 答えはすぐ出ないですし十人十通りの答えがあり正解はないにしても ― が必要でしょう。
 
 
小原氏:
もう上司にお伺いを立ててという時代ではないと思います。
自分で考える。そのためには知識がなければ考えられませんからね。

ありとあらゆることが人間に関する知識ですから、それを与えることが学校の役割で、幅広い知識の下で自分の考えを作っていくことが重要になってきています。
 
 
大杉:
AI(人工知能)がいろいろなことを人に代わってする時代ですからね。
しかし、正しいかどうか、できるけれどもしない、というような善悪の判断をするのは人間しかいません。

AIでは出来ない、判断を下すことはこれから非常に大事になってくる。
 
玉川学園の教育の6つの価値観の中に「善」が入っていました。
それは多分善悪をどのように判断するかということだと思いますけれども、そういうことを教えるというよりも自分で判断できるようにならなければいけませんね。



 

  •  




小原氏:
そういう意味では「バベルの塔」が考えるきっかけになると思います。【写真1】
 
バベルの塔は創造主である神に、人間が挑戦しようとして高い塔を作ったという話ですよね。
それが所詮人間にはそのような能力はないのだということで、神に塔を壊されたのですが、21世紀以降人間が作ったAIが我々の生活を支配するようにならないかという問題に置き換えることができるのです。
 
バベルの塔は人間の限度、限界を知らせるために神が塔を壊しているのですよね。それと同じようなことが、人間が作ったAIに対してできるのかという問題につながってくると思います。
 
 

 

  • 【写真1】「バベルの塔」ブリューゲル(父)、ピーテル 2019年製作 H1160×W1570㎜ STREAM Hall 2019に設置 

大杉:
社会の仕組みの中でAIをどのように活用すべきなのかという整理をする人も必要ですし、人間の生き方やAIとの折り合いをどうつけるかということを考える人もいないといけません。
 
一方ではどんどんAIが進化して、ファジー(曖昧)なことまで考えられるAIも登場している。
 
 
小原氏:
それが結局STEM教育の限界だと思うのです。
科学、技術、工学、数学の限界。
それではもう駄目だということで「STEAM教育」が入ってきたのです。

「A」というのは狭い意味の芸術ではなくて、哲学も含めた芸術・アートなのです。リベラルアーツなのですよ。


アートが入ってはじめてSTEAM教育というのは成り立ってくるのですが、そういういろいろな知識があった上で、人間が主体となるのか、STEMに任せるのか、選択を迫られる 日がくることでしょう。
 
 
大杉:
ひょっとしたらAIに選択してもらう方が良いという人も多いかもしれませんね。
 
 
小原氏:
そうだと思いますよ。何も考えなくて済むから。

でも考えることをやめてしまえば、人間とはそもそも何のために存在するのかということになる。
 
AIは確かに便利ですが、便利さにも限界があることを理解し、人間としての判断を下すことを常に考えなければ数学的に、統計学的に判断した選択肢にただ従うだけの生物になってしまう気がします。
 
 
大杉:
人工知能の奴隷のようになってしまうと。
 
 
小原氏:
バベルの塔では人間の限界を知らせるために神が言語をバラバラにしましたが、今後AIはどういう言語でお互い意思の疎通を図っているのか、何の言語で意思決定をしているのかということが最終的な課題になると思うんですよね。
 
言語にはやはりものの考え方がそこに反映されていますから。
日本語で判断してくれるならば日本人の感性に合った判断をしてくれるけれども、これが英語、あるいは西洋語、中国語、そのような言語で意思決定されるとすれば、日本人の感性とのミスマッチも考えられます。

AI同士でネットワークするのであれば、それは何語なのかということも考えなければ。
 
 
大杉:
人工知能が発達すると同時に、我々が考えておかなければいけないことや社会で整理をしておくべきことが沢山ありますね。
 
 
小原氏:
知識そのものに意思決定の要素は入っていないですから、それをいかに使うかという道徳観を持っていないと、「これをしなさい」と言われてそれが良いのか悪いのか、無批判で従うようになってしまう。
 
自分の中にも道徳という価値観、倫理観をきちんと持っていなければいけないと思います。

それに加えて、美意識、美しい立ち振る舞いも含めて美しさとは何なのか、日本人特有の美しさなのか、世界の美なのか、それも勉強していかなければいけない。
 
 
大杉:
小原國芳先生の教え「全人教育」で求めている教育のあり方というのは、結局今の言っていることとすごく合致していることがたくさんあるなと思って。
 
今のSTEAM教育の中の文理融合というものは、これからは人間性の問題が大切になっていく、先生が仰っていた教育理念をカタチにするということに非常につながってくるのではないでしょうか。
 
 
小原氏:
結局人間の教育というのは、そこなのです。
 
知識だけでは限界があるし、知識があればどのように使っても良いのかという問題にもぶつかってくるわけです。
 
 
大杉:
それが倫理であって、善であって、真理をどうするかということですよね。
 
 
小原氏:
そう。今も昔も人間教育というのは変わっていない。
 
個々の学問の知識の内容は少しずつ変わるかもしれませんけど、5000年以上培ってきた道徳観や美意識の流れというものは変わらない。

それらを知った上での新しいものづくり。それが創造性です。
それは芸術だけではなく、どの分野にも言えることではないかと思うのです。



 



■編集後記
 
 
 世の中の変化のスピードがどんどんと早くなり、プログラミングが必須科目に追加されるなど子どもたちへの教育もここ十数年で大きく変化しています。

 同時に、生涯学習の必要性・重要性も語られるようになってきました。
 
 
 それはテクノロジーの発展やグローバル化によって「答えのない問題」を問われる機会が増えてきたからではないでしょうか。

 複雑化する社会の問題を解決するには、幅広い知識を持ち、さまざまな角度から物事を考えられる柔軟な思考が必要だと小原理事長と大杉は言います。

 
 そのために様々な角度からモノを見て思考し自分の考えを表現する-0から1を生み出す-芸術・アートの分野を重要視しています。
 
 
 アートには正解はありません。正解がないということは、人の数だけ答えがあるということ。
 
 現代社会では多様な人の立場や考えを理解し、自分の考えとすり合わせ、共存する力が求められているのだろうと考えます。

 
 AIと共存する時代に、人間にしか考えられないことを考え続けることこそ、新しいアイデアや新しい価値を生み出すことに繋がるのではないでしょうか。

 アート作品には、「自分の考え」を生み出すためのヒントが多く眠っています。
 
 
 私たち大塚オーミ陶業は芸術・アートに関わる企業として、陶板でそのような作品の数々を次世代に繋いだり、新たな陶板を創造したりする事業を通して、人間ならではの価値(文化価値)について考え続けていきたいと思います。
 
 
 今回の対談が、芸術・アートに対する考えを見つめ直すきっかけになれば幸いです。
 

▶︎陶板を活かしたキャンパスづくり 学校法人玉川学園第3部後編 PDF(800KB)

  • 陶板(toban)
  • Special Contents
  • 陶板名画

ショールーム見学予約

弊社のオリジナル製品および、多彩なアーティストの方々との共同制作品、キトラ古墳をはじめとする文化財複製再現製品などの製品を、テーマ別に紹介しています。

  • 見に行ける!実績案内
  • 大塚国際美術館
  • もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂 <前編>
  • TOKUSHIMA VORTIS official website
  • メールレター登録・退会
ショールーム見学予約