本レポート『「やきもの」のある空間』では、大塚オーミ陶業の独自技術で製作する「やきもの」=「陶板(toban)」が設置された環境(空間)を紹介します。「陶板(toban)」について少しでも理解を深めていただければと思います。
「やきもの」のある空間 - 第3回 -
陶板(toban) × 学校《特別編》
玉川学園は幼稚部から大学・大学院、研究機関までが広大なキャンパスに集う総合学園です。
キャンパスの敷地面積は約61万㎡、東京ドーム13個分。創設者・小原國芳氏が「ゆめの学校」を実現する為に1929年に創設した学校で、調和のとれた人間形成を目指し独自の教育活動やキャンパス整備を展開されています。
本レポートでは、約20年に亘り陶板をキャンパス整備に活用いただいている、玉川学園の教育理念の実践に向けた取り組みをインタビューや対談を交えながら紹介したいと思います。
第1部の今回は、キャンパス内に設置されている陶板作品と建築物、そこに込められた想いをご紹介します。
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玉川学園では「全人教育 ※」を教育理念の中心に据え、人間の形成には「真(学問)・善(道徳)・美(芸術)・聖(宗教)・健(健康)・富(生活)」の6 つの価値観を調和的に創造することを教育の根幹に据えています。
この6つの価値の醸成には優れた芸術作品が重要な役割を果たすという考えのもと、キャンパス内には陶板をはじめ様々な芸術作品が設置されています。
1921(大正10)年、玉川学園創設者の小原國芳氏が初めて提唱した教育理念。提唱から2021年で100年。
人間形成には真・善・美・聖・健・富の6つの価値観を調和的に創造することを理想とした教育理念。その理想を実現するため12の教育信条と、「人生の最も苦しい いやな 辛い 損な場面を 真っ先きに 微笑を以って担当せよ」という玉川モットーを掲げている。
詳しくはこちら▶https://www.tamagawa.jp/introduction/enkaku/history/detail_12629.html
学園内に設置されている陶板名画は12 点。そのほかに、大塚オーミ陶業オリジナルデザインや、創立者である小原國芳氏の書、建物のエンブレムなどその数22点(2021年12月現在)にのぼり、小原國芳氏ゆかりの地である鹿児島県や海外にも設置されています。
■本物に触れてほしい、その想いから はじまりは「アテネの学堂」
玉川学園に初めて名画の陶板を採用いただいたのは2006年。始まりはこの「アテネの学堂」からでした。【写真1】
この「アテネの学堂」はラファエッロの代表作であり、学問を通し真理を追究する古代ギリシャの哲学者・科学者・芸術家など古今東西の知識人が集う学堂を描いたものです。
プラトンやアリストテレス、ソクラテスなど50 名を超える知識人が描かれています。
玉川学園では、この絵画に学園が目指す「全人教育」の価値の一つ「真(=学問)」の姿を重ねています。
「学問の発展なしに社会の発展は不可能であり、この丘で学ぶ総ての子どもたちが将来にわたって学問を原点とし、その重要性をしっかりと心に留めておいてほしい。
ここに描かれた哲学者たちのように、年齢の上下無く語らい、友の話に耳を傾け、互いの意見を尊重し、学問の真理を追究する姿勢を求めてほしい。」との想いでアテネの学堂が選定されました。
アテネの学堂が設置された校舎は現在「K-12 中央校舎 」と呼ばれており、9・10・11・12 年生がともに学んでいます。
この校舎内のアトリウム(吹き抜け空間)が、玉川学園の「学堂」であってほしいという願いが込められています。
※K-12一貫教育
玉川学園では、従来の小学校6 学年、中学校3 学年、高等学校3 学年の各学校完結型の教育ではなく、小学校から高校までの12年を一つの教育課程として捉えた一貫教育を行っている。
■玉川学園のためだけの特別な「アテネの学校」
陶板を製作するためにはまず著作権者であるバチカン美術館から製作承認を受け、ポジフィルムを入手する必要があります。
私たちは玉川学園のことを正しく理解していただいた上で陶板製作許可を得るため、理事長・小原芳明氏の親書とともに、学校の歴史や教育に対する理念が書き記された書物、建物のイメージパース、建築のコンセプト資料などを携えバチカン美術館を訪れました。【写真2】
無事、館長より製作許可と修復後の最新のポジフィルムをいただき、製作に取りかかりました。
陶板が設置されているK-12 中央校舎アトリウムの床は、絵画のなかに描かれた床と同様のデザインが施され、空間全体で絵画の世界観を表現する、まさしく玉川学園の「学堂」にふさわしい雰囲気となっています。
作品名は「アテネの学校(学堂)※ 」と命名されました。【写真3】
※アテネの学校(学堂)
大塚国際美術館にも「アテネの学堂」が展示されている。大塚国際美術館のアテネの学堂は修復前、玉川学園では修復後のポジフィルムを用いて製作され、描かれた当時に近い鮮やかな色彩がよみがえっている。玉川学園では、修復後のポジフィルムを用いて製作したことや、学園独自の絵に対する想いから、作品名を「アテネの学校(学堂)」と命名された。
玉川学園に設置されている陶板作品すべてが「アテネの学校(学堂)」同様、建物のコンセプトに合わせて選定されて、それぞれに子どもたちに向けたメッセージが込められています。
しかし、作品の説明板には、選定の意味を説明した解説文は記載されていません。
それは解説に頼らず、作品を見た子どもたちそれぞれがメッセージを受け止め、考えて欲しいという想いからです。そのようなところにも、玉川学園が「全人教育」を目指し推し進めるキャンパス整備の心を窺い知ることができます。
次回、第2 部ではその玉川学園のキャンパス整備に対する想いや陶板をキャンパス整備にどのように活用しているのか等をインタビュー形式でご紹介します。
(第2部は2022年2月頃公開予定)
■玉川学園陶板作品紹介
玉川学園内に設置されている陶板の一部をご紹介いたします。
詳しくはこちら(玉川学園ウェブサイト陶板マップページ)▶https://www.tamagawa.jp/social/useful/cpp_map/
※掲載されていない作品もございます。予めご了承ください。