本レポート『「やきもの」のある空間』では、大塚オーミ陶業の独自技術で製作する「やきもの」=「陶板(toban)」が設置された環境(空間)を紹介します。「陶板(toban)」について少しでも理解を深めていただければと思います。
■“想いを伝え続ける陶板(toban)” - コンセプトを大切にするものづくり
大塚オーミ陶業のオリジナル作品は、その場所の環境やお客様と向き合い、「コンセプト」を考えることを大切にしています。
人はやがてその場を去れども、陶板はカタチとして想いを伝え続けます。そこに居る人が変わっても、想いは陶板と共に受け継がれていきます。だからこそ、目に見えない「想い」をどのように、どのような「カタチ」にするか。お客様と、イメージを共有し、一緒に対話しながら「コンセプト」と「カタチ」を創るものづくりを大切にします。
「オリジナル作品編」では、そんな大塚オーミ陶業のものづくりを通して、作品に込めた「想い」や人の手だからこそ実現できる豊かな表現、「土」という自然素材から伝わるぬくもりある空間演出についてご紹介します。
「やきもの」のある空間 - 第2回 -
オリジナル作品編|陶板 (toban)×病院
新型コロナウイルスの感染拡大により日々緊張感が高まる中、懸命に最前線で働いて下さっている病院関係者の方々、入院生活や外来の診察等で不安を抱える患者さん、そしてそれを支える家族。「医療」は私たちが健康な生活を送る上で必要不可欠な要素です。
そんな病院に関わる人々に、癒しや安らぎを提供する陶板作品をご紹介します。
歴史ある近江の地で、長年私たちの健康を支えている「滋賀医科大学医学部附属病院(※)」。その外来棟1 階ライトコート(採光・通風用の中庭)に、琵琶湖をモチーフとしたレリーフが設置されています。
「淡海のうつろい」と名付けられたそのレリーフは、「患者等の憩いや癒しの環境づくりをコンセプトとした空間を設ける一環として、壁面に造形物を設置し患者等に癒しや憩いの空間を提供する」ことを目的とし、制作を依頼されました。
※滋賀医科大学医学部附属病院
滋賀医科大学医学部附属病院は、昭和53 年に開院した、教育・診療・研究を行う、滋賀県で唯一の大学病院。「信頼と満足を追求する『全人的医療』」を理念に、特定機能病院として、高度の医療の提供や開発を行っている。
(滋賀医科大学医学部附属病院ホームページ▶https://www.shiga-med.ac.jp/hospital/)
■ふるさとの安心感を伝える希望のシンボル
病院の「憩いの空間」にふさわしい造形物制作にあたり、私たちは「水」をキーワードに選びました。水と医療、どちらも心身ともに健康な生活を送る上で欠かせない要素です。人の手によって、気持ちによって、医療によって守られてゆく生命の営みを「水」というキーワードでむすびました。
人間の体の約7 割、地球の面積の約7 割を占める「水」は、私たちの健康や生活、地球環境にとってかけがえのない資源です。
ここ滋賀県が持つ雄大な水資源「琵琶湖」も、何万年もの間、私たちの暮らしを支え、また近江の風景を作り出してきました。夏の空や秋の夕暮れに水面を染め、比叡おろしに荒々しく波立ち、春の陽射しできらきらと光り輝く-四季や時間でうつろいゆく琵琶湖の表情は、少なからず近江の人々の心の風景となり、「癒し」となっているのではないか。
そんな私たちの心象を反映し、母なる琵琶湖の日々・四季のうつろいをモチーフとしました。
レリーフの形状は、この場所ならではの琵琶湖の形として、病院の上空辺りから琵琶湖を俯瞰した形を取り入れています。
(製作当時の)病院長にも、弊社信楽工場まで検品にお越しいただき、「すごく綺麗にできている。琵琶湖の秋など(季節が)移っていく感じが出て、全体が鮮やかな色彩で明るい。(壁面も)光がもれてきているようなイメージになっているので、“希望”ということばがぴったり来る。」とのお言葉を頂きました。
■不安に寄り添うアートとしての陶板(toban)
新型コロナウイルスの感染防止対策により、気軽に院内でコミュニケーションが取れなくなった時分。感染防止の対応に追われ神経をすり減らす職員や、閉塞感や孤独を感じる患者もおられるかもしれません。
こんな時にこそ、病院に訪れる患者、医師、学生の方々にそれぞれの琵琶湖を心に思い描いて頂きたい。その琵琶湖のイメージが、心に安らぎや、ふるさとの安心感を提供して、心身ともに健康な毎日を送る、希望となることを願って-。
先の見えない不安や、言葉では表現しきれない感情の「拠り所」として、大塚オーミ陶業の作品はあり続けたいと考えます。