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大塚国際美術館 陶板製作レポート

もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂 <後編>

2021/01/21



 大塚国際美術館は、世界中の西洋名画をオリジナルと同じ大きさで陶板に置き換え展示した、「陶板名画美術館」です。その中の一つ「スクロヴェーニ礼拝堂」は、大塚国際美術館の作品の中でも最多の現地調査を行い、綿密で多岐にわたる調査を経て「もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂」を作り上げました。

 後編では最終現地調査から完成までに焦点を当ててご紹介します。





■現地最終調査


 1993年7月26日~28日は最終の現地調査であり、試作品検品や照明テストを行いました。

 陶板は撮影したポジフィルムの色をそのまま再現すればいいというものではなく、照明を当てた時に壁画と同じように見えねばなりません。事前に日本で行った照明テストでは、現地と同じ仕様の照明を使用すると陶板の赤と青が極端に違って見えることが分かっていました。

 「陶板の色=壁画の色」となる照明と600×600㎜の30枚の試作品陶板、さらに陶板設置のための取り付け器具も含め700キロを超える荷物を現地へ輸送しました。

 

 現地では、初回調査からそのまま残していただいた足場に比較用のパイプを取り付け、そこに陶板を設置。可能な限り本物の壁画の横に配置しました。【写真1・2】

 まずは現地の照明でテストを行いましたが、予想通り赤と青の色に違和感を覚えます。そこで日本でテストをした照明を使用すると館長も立ち合い者も全員納得し、本製作の許可をいただきました。


 

  • 【写真1】 足場にのぼり、壁画に試作 陶板を並べて色や質感などの 仕上がりを検証。陶板は 重いのでパイプに固定して 行われた。 
  • 【写真2】 壁画と陶板の色や質感が どう違うのかを見比べ、 違いを図録に直接書いて 本製作に役立てた。 

 


曲面の再現


 晴れて本製作の許可が出ましたが、現地での検証は600㎜角の部分的なもの。空間全体の再現が本当に可能なのか、まだまだ不安が募るばかりでした。

 帰国後、これまでの調査をもとにまずは平面の壁画から取り掛かり、窓枠のテラコッタ、天井部の曲面の順に製作していきますが、特に曲面部分の製作には非常に苦労しました。
 それまでの私たちには大型陶板を曲げるという技術がなかったのですが、過去の失敗からヒントを得て陶板を曲げることに成功します。数十枚の陶板を同じ円弧にするため3日に1枚、半年をかけて見事に全て同じ曲面の陶板が完成しました。

 窓枠内側はテラコッタで、全て技術者の手作業で製作されています。やきものは基本的に縮み変形しやすい性質を持っていますが、窓枠の形状を保たせるために枠の外側にひずみ防止用の支えを付けて焼成します。また、この支えは取り付ける際の施工現場でも役立っています。【写真3】


 

  • 【写真3】窓枠内側はテラコッタで製作。窓枠外の支えはひずみ防止、施工現場で役立っている。 
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 焼成された陶板はスケール感や質感を確かめるために7×20mの仮設下地に順次仮組をし、全体像を確認していきます。

 1つでも色や目地の違和感があると全体のバランスが崩れてしまうため、見え方や全体を把握するこの作業は非常に重要でした。また、どのような照明を使用するかによっても、陶板の見え方は変わってきます。様々な照明を使用し、光源・光量や照明と陶板の距離までも細かくテストを重ね、最も適したものが選定されました。【写真4】


 

  • 【写真4】信楽工場内を暗室にし、様々な照明を使用してテストを行い、選定された。 
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■もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂


 全ての陶板の完成とともにパドヴァから館長含め3名の関係者が来日され、信楽工場内にて最終検品が行われました。【写真5】

 約1年間という製作期間の速さに非常に驚かれていましたが、心からの満足を得ていただき晴れて最終的な承認を得ます。「大塚国際美術館でレプリカを観て、本物はパドヴァまで見学に来られるよう、宣伝してください」とのあたたかいコメントまでいただきました。



 

  • 【写真5】信楽工場内に並べられた陶板を見て検品をする様子。パドヴァからは副市長イレス・ブランジェット氏、市立美術館館長  ジャンフランコ・マルティノーニ氏、パドヴァ大学教授ジョバンニ・ゴリーニ氏が来日。 
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 工場では床や壁に並べて部分的な確認はできても、礼拝堂の空間全体を組み立てることは物理的に難しいため環境展示として美術館に設置するまでスタッフの心は、不安と期待の気持ちが交錯していました。床・壁・天井まで環境展示として設置が完了し初めてその全貌を目にした時、現地の臨場感を十二分に味わえると強く確信。満足感と安堵の気持ちが沸き上がり、思わず口元が緩むほどでした。

 ついに「もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂」が見事に出来上がったのです。


 

  • 完成したスクロヴェーニ礼拝堂 使用陶板数:740 枚  製作期間:1993 年3 月~ 1994 年2 月  設置年:1997 年  復元空間:間口8.4m× 奥行20.9m× 高さ12.7m 

 

 現在、現地では壁画の保護と保存のため予約制・人数制限・時間制限が設けられていますが、入館者による室内温度の上昇や外から持ち込まれるほこり、さらに環境の変化が劣化の原因となっているそうです。

 大塚国際美術館のスクロヴェーニ礼拝堂壁画完成からおよそ26年。ここでは26年前のスクロヴェーニ礼拝堂を見ることができ、ある意味では定点観測地点のような役割を担っていると言っても過言ではないでしょう。

 大塚国際美術館にお越し下さった際には、このような礼拝堂が存在していることやジョットという画家が居たことを知っていただき、自分なりの美術の面白さを見つけてみてください。パドヴァからのコメントのように、いつか本物を見に行くと新たな発見に繋がるかもしれません。



スクロヴェーニ礼拝堂
所在地:Piazza Eremitani, 8, 35121 Padova PD, Italy 鉄道パドヴァ駅から徒歩10分
URL:
http://www.cappelladegliscrovegni.it/index.php/en/(英/伊のみ)




▶︎もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂 <前編> を読む

▶︎PDF:もうひとつのスクロヴェーニ礼拝堂 <後編>(1.1MB)

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