想いをカタチにする陶板(toban) ー役員自らの手で刻まれた想いー
2004年、まちびらきした「国際文化公園都市彩都」。茨木市と箕面市にまたがる大阪北部の丘陵地に、人と自然が共生する都市づくりが展開されています。そんな彩都のシンボルゾーンである「彩都ライフサイエンスパーク」に2016年1月、アース環境サービス彩都総合研究所T-CUBEが竣工しました。
この建物の1階ラウンジに設置されたアートワークの製作では、アース環境サービスの役員の方々と共同で陶壁の一部を製作しました。
今回はそのデザインが選ばれた理由や、ワークショップを実際に体験した感想など、お客様の声もお聞きしながら、私たちの作る大塚オーミオリジナルの「陶板(toban)」についてお伝えしたいと思います。
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アース環境サービス彩都総合研究所T-CUBEの1階ラウンジに設置された陶壁「シナプス」は、自然界にある有機的な形態をイメージし、さまざまな要素が交流し、結合し、広がって、無限に成長して行くさまを表現しています。
「土」という天然素材から伝わる素朴なあたたかさ。人の手によるものづくりだからこそ実現できる、豊かな表現とぬくもりある空間演出。焼き物でしか成し得ない形・色彩、そして、永続的な想いの伝承。世界で一つだけの、オンリーワンのものづくり。それが私たちの目指す「陶板(toban)」です。
■ワークショップの実施
「どこかのパーツの制作に参加させてもらえますか?」打合せの中で頂いたその一言から、作品の一部に自ら手を入れていただくことが決まりました。
2015年7月31日、信楽工場にてアース環境サービス(株)の金井会長、松本社長、山形専務、勝藤専務、中野専務、メイン設計士の古市氏にお越しいただき、「シナプス」の一部を製作していただくワークショップを実施しました。
弊社社員による説明をお聞きいただいた後、早速製作開始。真剣な表情を浮かべながら黙々と取組んでいただきました。
約1年半の歳月をかけ、出来上がったインパクトのある陶壁。凹凸やテクスチャ、土の温かな質感、複雑な形態とは反対に、シンプルに無彩色に抑えられた色彩。やきもの特有の様々な表情が楽しめる作品です。この作品は、彩都という特有の場 、専門家や最先端の技術、情報が集まる地域・施設であることを意識し、また伺った「交流」や「発信」、「独創性」といったキーワードを元に、打合せを重ねコンセプトやデザインなどを共に創り上げました。
私たちのオリジナルデザインの陶板は「世界に一つしかない」ものです。だからこそ、私たちはお客様と「共に創り上げる」ことを大切にしたいと考えます。
■アース環境サービス株式会社
代表取締役会長 金井宣人様 代表取締役社長 松本吉雄様 インタビュー
アース環境サービス彩都総合研究所が竣工して約3ヶ月が経った2016年5月、アース環境サービス(株)金井会長、松本社長にワークショップも含め「シナプス」についての感想をいただきました。
-このデザインに至るまでに沢山のデザインをご提案させていただきましたが、「シナプス」が選ばれた理由をお聞かせください。
金井 いろいろご提案いただいた中で、私共の施設には微生物を扱う施設もございますし、提案していただいたシナプスの有機的にどんどん無限に広がっていくというイメージが業務の内容にも合いますので。取締役会で全員一致で「じゃあ、これでお願いしよう」ということに。
松本 カビの菌糸が培地上にどんどん広がっていくように、アース環境サービスも世界や宇宙に向けて無限に広がっていくようなイメージを、今後ここに来てくださる方々に感じていただけるかなというのもあります。
-ワークショップのメンバーですが、何故このメンバーが選ばれたのでしょうか?
金井 参加した6人のうち5人は当社の常勤の取締役です。あと1人がゼネコンのメイン設計士。せっかく作るなら自分たちで少し触らせて、作らせてもらおうと思ったんです。自分たちが(研究所の建設や陶板の設置を)決めたわけですから、自分たちが作って責任を持とうと。それが(土を)少しクニャっとするくらいかなと思ったら、エプロンもタオルも用意されていて(笑)
-すごく暑かったですよね(笑)
金井 冷房が全然効いてなくて、スポットクーラーの方が涼しかった(笑)
-粘土って生ものですから、風が当たっちゃうと表面だけ乾いてヒビが入ってしまうことがあるので、どうしても人間の方が我慢しないといけない所もあるんです。
松本 「あまり手を入れすぎると作風が変わってしまうんじゃないか」と会長も心配されていましたが、オーミさんからも「どうぞやってください」とのことでしたので(笑)
金井 どうもイメージが合わなくて難しくてね。
松本 実際に作らせてもらうと、あんなに縮むものだと思ってもなかったですし。知らなかったことはいっぱいありました。
-陶板が取り付けられたこの場所というのは最初から決まっていたんでしょうか?(デザイン担当者から)外部にも色々提案させていただいたとお聞きしていますが、最終的にこの壁面になった理由をお聞かせください。
松本 もともとこの場所は人が集まる場所なんですよね。隣は研修などが行われるホールですし、開催後に、交流パーティーも出来る、ラウンジ機能もあって。色々と活用出来るホワイエのような場所ですね。
金井 ここからは眼下に彩都の街並みが見え、さらにその先、ちょうどこちらの方角(シナプスに向かって右手側)がグループの発祥の地、鳴門なんですよ。
-ちょうどこちらなんですね!鳴門まで見えるといいんですが…
松本 良く晴れた日には、見えることもありますよ。
-すごいですね!ぴったりの場所ですね。そしてちょうど(建物の)キューブが重なっているところの壁ですからね。そういう意味でも、研究棟とオフィスを繋ぐ、交流と結合と…
松本 シナプスも結合ですから、本当に合っているなと思いますね。
-ワークショップをして、焼き上げて、取り付けられたものを実際に見た時はどう思われましたか?
松本 やっぱりすごいな、良い作品だなと思いました。
金井 途中で切れているところがまた良いんです。天に向かって突き抜けている。壁の中に収まっているんじゃなくてね。
(※「シナプス」に向かって右上部分は、2階の会議室にまで突き抜けた陶板が設置されている。)
松本 そうそう、(ワークショップ時に)「上の部分は切る」って言われたんですよね。「それなら、切った部分をください」と言ったんです。「どうするんですか」と聞かれたので、「2階かどこかにつけます」って。
-でも、あの時は社長の部屋かどこかに、ペーパーウェイトとして記念にという話でしたよね。
松本 いや、突き抜けた所に置こうと思っていたんですよ。
-最初から考えられていたんですね!
-建物が出来て約3ヶ月経ち、ここで竣工式なども行われたそうですが、社員の方々や社外の方々の声などをお聞かせいただけますか?
金井 「こんなの見たことない」という意見がほとんどですね。
松本 チームリーダー、新入社員、開発系、研修…社員の半分くらいの人は、もう見たのではないでしょうか?海外からのお客様にも、見ていただいています。
-すごいペースですね!もう半分もここに来ているなんて。
金井 やはり実物を見て、皆こう、立ち止まって、「へぇー、これが」と見ているような感じですね。写真だけ見たら、絵を描いているように思う人もいるだろうし。
-確かに、この迫力感は来てみないと分からないですね。
金井 実際に触れてみたり、叩いてみたりする人もいるし、「えぇー?」という感じの人もいれば「これが!」という人もいて。
松本 大きいと思うのでしょうね、やっぱり。こういう風に、自分たちも突き抜けていかないといけないのか、と責任を感じているかもしれないですね。
-本当にここまで自由度を高めていただける発想と、それを実践、実行するということは我々もあまり経験することがないので、ありがたく感じています。大体が画面の中に収めてしまうデザインですので。
金井 オーミさんというと、絵画とそっくりに陶板を作られるというイメージがまだまだ強いのですが、シナプスを見て「(オリジナルデザインの陶壁製作など)こういうこともされるんですか」ということも言われますね。
-複製だけではなくて、オリジナルという点で、創造、クリエイションに通じる会社になっていきたいなと思っていますが、それを自ら会長や社長が率先してくださって。ある意味でもすごく先駆的な作品になると勝手に予感していました。
松本 最初は、陶板、陶板と呼んでいたのですが、焼き物の「板」じゃないんだよなぁっていう話ですよね(笑)
ここで、お客様に見学のご案内もされている、アース環境サービス(株)渡邊主任にも感想をいただきました。
渡邊 案内ビデオでも陶板が紹介されていますが、映像で見るのと実物で見るのとでは人によってイメージのされ方が違うので、実際にご覧になられると「わっ」という声が上がる時もあれば、ちょっと反応の薄い方もいらっしゃいますし、大きさに圧倒されて「こんなに大きかったんですね」と仰る方もおられますね。
-渡邊さん自身はどう感じられましたか?
渡邊 初めて見たときは「すごいな」と思いました。まさかこんなに大きいものだとは思っていなかったので。
-まだ小さいと言われたんですよ(笑)
渡邊 そうなんですか(笑)
-会長や社長自ら作られたということに対してはどうですか?
渡邊 社内の人に案内をする時には必ず「ここの部分にサインが入っている」などと説明しますし、時間がある時は「どこかに会長、社長のサインが入っているので探してみてください」とか、クイズじゃないですけど(笑)
-やっぱりそういう風になってるんですね(笑)永遠に語り継がれる5人ですからね。
渡邊 そういう風にサインを探して楽しんでいただいたりもしていますし、「こういう風に作ったんです」と言うと「へぇー!」という感じで、お客様も驚かれますね。中には、全部社員が作ったと思われる方も(笑)
-なるほど(笑)
松本 そんな才能ないですよ(笑)
渡邊 説明の時には「オーミ陶業さんとの共同製作で、一部はうちの社員も作りました」というようにご説明するのですが、「これ、全部作られたのですか!」という風に…
-でも、そういう風にリメイクしていくのもアリですね!それこそシナプスですよね。増殖していって、それ全部アース環境サービスさんの社員の方で…
渡邊 足していくということですか!
松本 それは、面白いですね!
-面白いですよね!2階のところに増やしていったらいいんじゃないですか?
松本 突き抜けた先に、更に伸ばしてね。
-来るたびに風景が変わるとか。
松本 いいかもしれない。予算があったら(笑)
-シナプスというのは進化するものじゃないですか。だからそれがどんどん進化していく、変化していくというのは面白いですね。この陶板も色であったり、形も光の当て方によって、場所によって、全部見え方も違いますからね。
渡邊 そうですね、一つ一つ違うのがまた凄いですよね。鱗みたいなところもあれば、ねじっているところもあって。「見ていて飽きない」「一つ一つ意味が込められているのがわかる」ということを仰ってくださるお客様もいました。
■見えぬけれども、そこに存る
夏の暑い最中、予定していた時間を大幅に超えるほどの集中力で創り上げられた「シナプス」。「作業を終え、やっと実感が湧いた」と、仕上がった陶板を全て敷き並べての記念撮影の際、そんな言葉をいただきました。
私たちはお客様との打合せでお聞きした話をもとに、様々な想いを反映し、製作をしますが、このようにワークショップという形で、一緒に作品を創り上げることで、更に作品から発せられるメッセージは強いものとなり、その作品が出来上がった時や作品を見た時の感動は深まります。
陶板を設置し、竣工式を迎えられた後、「はみ出した部分の陶板を2階に突き抜けたように設置してほしい」という要望もいただきました。このように陶板(toban)にお客様の想いやアイデアが更に加わり、世界で一つだけの陶板となるのです。
自らの手で刻まれた「想い」は、目で見ることはできません。しかしそれは、「陶板(toban)」という確かなカタチとなって、受け継がれていくのです。私たちはこれからも、お客様と「共に」想いを込めた「そこにしかないものづくり」の可能性に挑戦し、生活に豊かさと潤いを与える企業でありたいと思います。