― 製作方法の検討と工法開発 ~ 安全に美しく設置するために ―
■土の選定と製作方法の検討
新レリーフは、旧レリーフとほぼ同じ大きさのピースを用いて構成することになりました。その大きさは、最大1ピースが縦30㎝×横45㎝×厚み30㎝。これを約350ピース作らなければなりません。まず、レリーフ用に調合された土を成型機(土を抜く機械)で抜き、土のブロックを作っていくのですが、30㎝の厚みのブロックは未知の経験でした。
通常成型機では、調合された原料の水分を均質化するとともに、真空状態にして土の中の空気を抜き、圧縮して押し出すことにより密度の高い安定した陶土に仕上げます。
しかし、30㎝もの厚みがあるブロックを均質に、安定的につくるには、原料選定から押出しの方法まで様々な検証が必要でした。何度もチャレンジすることになりましたが、設備変更の末、安定したブロックを作ることができるようになりました。
■レリーフ配置と1/5モックアップ
新レリーフ6体はすべて旧レリーフと同じ大きさで製作することになっていましたが、建物の大きさは旧ビルと新ビルでは大きく異なっていました。特に新レリーフを設置する壁面は、旧ビルの壁面に比べて広く確保されていたため、旧レリーフと同じ配置でいいのだろうかという話が打合せで出ました。そこで、旧レリーフの配置を基本としながら、建物全体が描かれた図面上に紙で作った新レリーフのミニチュアを、監修者の先生にバランスよく配置し直していただき、最終的な配置を決定していきました。
▶ビル全体の形状も考慮した上、旧レリーフの配置よりも「太陽」を高く、「牧神(鳥)」を低く配置し、バランスをとった。新レリーフは、旧レリーフよりも高い位置に設置される。
▶木細工で表現した凹凸のあるレンガ壁面上に1/5新マケットを配置し、想定される高さに上げ、見え方を確認。レンガから少し浮かせた取付の意匠性の検証も行った。
■ 地上40mの高さに
レリーフは土佐堀川に面した南壁面の、高速道路上からも見えるような高い位置に設置されることが決まっていました。しかし、このような高所に巨大なレリーフを設置することは、私たちにとって初めての経験です。
1ピースの最大重量は約40㎏。平均でも約20㎏あります。また、各ピースの形状はひとつとして同じものはありません。牧神一体につき90ピース前後、それを40m近い高さの外壁面に、安全に、美しく取り付ける。高層の狭い足場の上で、果たしてそれは可能なのか。私たちは、様々な課題をクリアするために、新しい考え方で取組むことになりました。
高い耐震性を誇る最新の超高層ビルに設置するということから、新レリーフの取付方法は、建物の躯体の動きに追従し、揺れを吸収する乾式工法を前提としました。しかし、テラコッタ建材(※)での乾式工法の実績は多数あるものの、今回のレリーフのように、ひとつひとつ形状、重量が異なり、かつ高層での設置の実績はありませんでした。
意匠性、安全性、施工性を考慮した中で、レリーフを設置するためには、取付方法と製作方法を平行して考え、調整していかなければならないということになりました。
▶【神戸朝日ビル 1993年】 弊社テラコッタ製のパラペット部は乾式工法(現場で水を必要とする材料を用いず、金物等で取り付ける工法)。阪神・淡路大震災にも耐え、安全性が証明された。
■ 工法検討に半年間
これだけ巨大なレリーフを床に敷き並べた状態と同じように直立した壁面に取り付けようと思うと、平滑な壁面でも難しい作業となってきます。しかし、今回レリーフが取り付けられる外壁面は有機的な表情を出すためにレンガを前後にずらし、凹凸をつけたものになる予定でした。レリーフはその前面(躯体から約20数㎝離れた位置)に取り付けなければなりません。
そういった条件の中、私たちは施主、設計者、施工者と知恵を出し合いながら、建物の性能を落とすことなく、レリーフを安全に設置し、かつ美しく見せるためにはどうすればよいのか。工法の検討だけで、半年に渡り検証作業を重ねることになりました。
▶旧レリーフは、モルタルを充填させながら1ピースずつ積み上げ、取り付けられた。肩部分上部のピースには、モルタルの充填跡がある。
■原寸大の試作と「星」モックアップ(意匠面と施工面の検証)
色目(釉薬表現)の方向性と表面テクスチュアなどの意匠面の確認のため、レリーフの一部を原寸大の大きさで試作することになりました。当初は、製作が難しいと考えられる複雑な形状のピースと、レリーフの「顔」でもある牧神の頭部の原寸大試作が予定されていましたが、意匠面と合わせて取付方法も具体的に検証する必要があると考え、これに加えて「星」一体を原寸大で試作し、金物の取り付けから施工試験まで行うことになりました。
▶監修者に生土(乾燥・焼成前の土の状態)に手を加えていただき、土の感触を確かめていただいた。
(写真左:左から、監修者の鷹尾先生、監修者の建畠先生/写真右:奥、監修者の建畠先生)
意匠面、施工面の検討を同時に行うため、工場内で見晴らしのいい場所にレンガ壁面を再現した壁をつくり、モックアップ(見本製作)を設置。これにより製作面においては、色、テクスチャ等表面意匠のイメージを捉え、施工面では取り付けにおける課題の抽出及び検証材料を確認することができ、自信へとつながりました。満を持して、いよいよ本製作に取りかかることになったのです。
▶2~4ピース程度を一体化し、意匠性の確保と施工性の維持が可能なパネル工法を実施。
▶周囲レンガとの相性もよく、色目(釉薬表現)も満足できる結果となった。意匠面と性能面から、レリーフの目地は空目地に決定した。
協力(敬称略):
朝日新聞社/朝日ビルディング/建畠朔弥/鷹尾俊一/建畠晢/日建設計/竹中工務店
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